読書感想「女生徒」太宰治

読んだ本の感想を書きます。今回は太宰治作の「女生徒」についての感想です。学生の頃は太宰治の作品はどちらかというと苦手なほうだったのに、「人間失格」を読んで以降他の作品も読んでみたくなってしまった。嗜好は年齢と共に変わるものですね。

今回の「女生徒」の場合は表紙絵に一目惚れしたから購入したという理由の方が大きいのですが…。

 

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「女生徒」には表題も含めた計十四の作品が載った短編集です。全作品が女性視点で書かれていて、その心象の描写がリアルで読んでいる間は男性作家が書いたものだということを忘れるくらいでした。

そんな十四の短編の中から表題の作品も入れた中から、特に印象に残ったものをいくつかピックアップして感想を書いていこうかと思います。

 

・女生徒

まずは表題の作品から。作品の元ネタは女性読者から送られてきた日記ということもあって、内容は十代の少女の何気ない日常の中での心象がメインとなっています。自分の容姿へのコンプレックス、親へのちょっとした反抗心、老いることへの嫌悪など思春期特有の繊細な心の描写がリアルで、中学高校の頃に読んだら主人公に物凄く共感していたかもしれません。今読んでも「そうそう、そんな風に感じていたなぁ」と思わせる部分が多く、基にしたのが女性読者の日記とはいえ、これを書いたのが男性作家だとは信じられないくらいでした。

・恥

思い込みの激しい女性の話。主人公は小説家の戸田を作品の特徴から学のない下品な人間だと推測し、彼の人柄や作品を批評した手紙を戸田に送りつけます。更に「このままではいつか堕落してしまう。私が逢いに行ってあげなくちゃ」と、本人の家に直接押し掛けるという大胆な行動に出ます。ここで主人公は自分の抱いていた戸田の人物像がただの空想だということを思い知らされるのですが、主人公はそのことに対し「恥をかかされた、小説家はみんな嘘つきだ」と嘆きます。微塵も共感できないどころか「あー、いるよねこういう人」という感想が出てくるほど生々しいというか主人公の心象がリアルでした。

・待つ

駅で誰かを待つ女性の話。個人的には凄く好きな短編です。主人公は毎日駅に向かい誰かを待っているのですが、彼女自身にも自分が誰を待っているのかは分かりません。その待っている誰かがひょっこり現れてくれたらという期待と現れたらどうしようという不安の中、彼女は毎日誰かを待ち続けます。人と逢うことに恐怖を抱いている主人公が誰を待っているのかは、最後まで不明なのですが、その方が読後により余韻に浸れてとても好きなラストです。何だかいつかどこかの駅でこの主人公に逢えるような気がしてなりません。個人的におすすめなので気になった方は是非読んでみてください。

・饗応夫人

他人にたかられる夫人とその夫人のお世話をしている女中の話です。主人公は女中の方です。終戦後、夫の元同級生だったらしい笹島という男とその仲間が毎日のように家に押し掛け酒盛りをしてバカ騒ぎをし、それを享受する夫人に主人公はやきもきし、毎日酒盛りをする笹島達に苛立ちを感じるのですが、女中という立場上彼らを追い返すこともできす主人公も彼らの酒盛りの世話をするしかありませんでした。元々接客が苦手だった夫人は心身ともに疲弊し、ついには吐血するほど体調を崩してしまいます。とうとう耐えきれなくなった主人公の説得で夫人は一度は里帰りを決意するのですが、そこへ笹島が若い女を二人連れて現れ、夫人も女中も里帰りを諦めるというラストで締めくくられています。

「早く逃げてくれ」と思ったり、一応医者と言う設定の笹島に「夫人の体調不良に気づけよ」と思いながら読み進め、「逃げようとしたけどできなかった」というラストに虚しさを感じました。登場人物全員が身近にいそうなくらいリアルで印象的な作品でした。

 

感想を挙げた作品の他にも印象的なものは他にもあります。この短編集はフィクションの世界を楽しむというより、作品の主人公や登場人物に共感するための作品のように思えました。