埼玉の民話「百七十歳の九尾狐」

夏に怖い話として埼玉の民話を紹介しましたが、今日の記事でもも埼玉の民話を一つ紹介します。今回は怖い話ではありません。狐にまつわる民話です。

 

むかしむかし、あるて寺の小僧さんに狐が取り憑きこんなことを口走った。

 

「我はこの寺の境内に住んでいる狐じゃ。この間、旅に出てある村の庭先にいた鶏を食っていたところ、村人たちに追われてひどい目にあった。何とかここませ戻ってきたが、我は今年で百七十歳になるためもう体が言うことを聞かぬ。どうか我を神として祭って、毎日供え物をしてくれぬか」

 その話を聞いた和尚は怒り出した。

 「百何十年も前からこの寺の境内に住み着いていると言うが、わしは今までお前のことなど聞いたことがない。年老いて食べるのに困ったから毎日供え物をしてくれとは何たる言い草じゃ。すぐに小僧の体から離れて何処かへ立ち去れ!

さもなくばお前をたたき出してやるぞ!」

 と、和尚は鉄の棒を持ち出してきたが、小僧に取り憑いた狐は、

 「嘘ではない。百年以上も前に、我を見たという話を聞いた者がいるはずじゃ。証拠を見せてやるから、年寄りを集めてみよ」

 と、落ち着き払って言い、和尚はならば証拠を見せてもらおうと、狐が言った通りに村の年寄りたちを寺の境内に集めた。

 

「我を神として崇め、供え物をしてくれれば、これからのち、災害、干ばつ、病気の心配はいらぬぞ。その証拠を見せてやろう」

 と集められた年寄りたちに言うと、狐は小僧の体から離れ、正体である九尾の狐の姿を現した。すると、年寄りの間から驚きの声が上がった。

 

「おおっ!これは九尾の狐じゃ。子供の頃に聞いたことがある」

 

その昔、その村には九本の尾を持つ狐が住んでいたと伝えられていて、和尚は庄屋と相談して、寺の門前にある小山の南側に小さな祠を作って、この九尾の狐を祭ることにした。

 

 

 

よくある昔話みたいなないようですね。ちなみに狐は五十年生きれば変身能力を持ち、百年生きれば美男美女に化け、千年生きれば千里眼を持ち、天界と通じる天狐になると言われているそうです。狐の妖怪は悪さをする野狐と善行をする善狐の二種類に分かれ、天狐は善狐の代表格と言われています。

お話の中に登場した九尾の狐と言えば「殺生石」の話に登場する金毛白面九尾の狐が有名ですよね。「殺生石」に登場した九尾の狐は美女に化けて権力者に取り憑き政治を思うままに乱しましたが、この民話の九尾の狐は何だかお茶目な印象を受けますね。

 

参考

百七十歳の九尾キツネ 埼玉県の民話 <福娘童話集 きょうの日本昔話>